ディーパンカラシュリージュニャーナの『大経集』のテキスト・データベース化の作業として、コンピュータへのデジタル・テキストの入力作業が順次進行中である。今年度は、後半の第15章以降の入力作業を行った。その結果、今までその出典箇所が未確認であった『正法念処経』の引用箇所を確認することができた。これらの引用は、出家僧の堕落原因の13項目を述べたコンテキストからのものであるのだが、これらの項目の四つはそのまま『大経集』の章のタイトルに一致している。このことから、『正法念処経』は、本テキストの構成を考える上でも、ディーパンカラシュリージュニャーナに重要な影響を及ぼしていたことがわかり、『大経集』を編纂した意図の一端が解明された。なお、これらの入力データに関しては、校正を経た上で、ホームページにおいて公開する予定である。 また、ディーパンカラシュリージュニャーナに帰される他の著作のうち、『菩提道灯論細疏』における大乗経典の引用に関する調査、および『般若経』に対する概説書でもある『現観荘厳論摂義灯』に関する調査も行った。前者に関しては、「菩薩戒」に関する部分の内容を解析し、『大経集』においても引用される『菩薩地』の「戒品」に基づいて著されていることが明らかになった。また、そこに引用される経典の『大経集』およびシャーンティデーヴァの『菩薩集学論』との関係も明らかにされた。 後者に関しては、彼の般若経観とともに、チベットにおいて『現観荘厳論』をどのように講議していたのかを調査した。その結果、『現観荘厳論』八句義七十義との対応や、先行する注釈者たちへの言及箇所なども解明された。
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