本年度は、アトリエ問題の基本的な資料、特に伝記、回想記を中心とする同時代テクストとともに、その証言を美術史的に跡づけるため、ジェリコーなど主要な作家の作品カタログを収集した。テクストについては刊行年の古いものも多いため、収集は簡単ではないが、引き続き複写等により収集を続ける。また作品の複製といった視覚資料については、写真撮影の上、コンピュータを利用した整理に着手している。 また、19世紀初頭のアトリエ問題を考えるにあたって、近代美術史の方法論にも関心を持たざるを得ないが、この点に関しては、フォシヨンによる19世紀美術研究を素材に若干の考察を行い、学会で発表した(「フォシヨンと近代美術」、『美術史学』20周年記念学会、於東北大学、平成12年11月)。その結果、主流となる作家の流れを追って記述してゆく近代美術史のあり方は、常にオーソドックスなものであり続けたわけではなく、フォシヨンのようにいわば複眼的な姿勢で近代美術の世界を捉えようとする方法を発見することができた。この点は、本研究の方法論的支柱として活用し得る考え方であるように思われる。 また、この問題が近代美術における独創性の問題に関わることは当初から想定していたが、考察を進めるうち、同様に「様式」の問題とも関わることがクローズアップされてきた。様式は、最近の論者が示すように、ある種の「ハビトゥス」とも言うべき社会性を持つと同時に、近代美術においては個性の表徴ともなっていく、矛盾した相を示すからである。この点に留意しつつ研究を深化させ、論じていきたい。 今後引き続き、アトリエ問題に関する1次資料、及び関連研究を収集し、分析・考察を行うことにより、所期の目的を達成してゆくこととする。
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