本年度は、資料の収集と唱歌の体系的な分析を行うために必要な音組織の考察を中心に研究をすすめた。資料の収集は、現行の伝承における三管(龍笛・篳篥・笙)の唱歌の録音資料と、唱歌を記述した楽譜を中心に行い、文献資料については今年度は宮内庁書陵部に架蔵される雅楽関係の資料の調査・収集に力点を置いた。唱歌譜については庭田家旧蔵の雅楽譜中に、近世の京都方大神家の唱歌を伝える『龍笛仮名譜』の存在を確認した。音組織の考察は唐楽の理論的な基盤をなす調子の構造の解明を中心に行っている。今年度は律の三調子(平調・黄鐘調・盤渉調)の変遷と中国の商調と宮調が混淆し特異な構造を形成している壹越調を中心に検討を加えた。その中で律については、音階構造が中世を境にその内容に明らかに変化が見られることを明らかにし、その成果の一部を「国歌「君が代」の旋律の背景」(伝統文化鑑賞会「和歌の披講」プログラム、平成12年4月)の中で発表した。壹越調の構造に関しては、装飾音の一である「由」の検討から壹越調は確かに中国の商調に拠っていること、特異な構造は「由」の音程が一部変化することによって生じたもので古楽譜の検討からその構造は平安期に作られたものであると考えられること、特異な構造が生まれた背景には日本で平安期に整えられた呂律の理論があると考えられることなどを明らかにした。その成果の一部は平成13年1月に香港城市大学で行われた太平洋鄰人協会の国際会議で報告した。
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