ヒーリング・オルゴール試作機の演奏音について、高速標本化1ビット方式による超広帯域ディジタル録音を行い、高速フーリエ解析による周波数パワースペクトルの分析を行った。また、最大エントロピー法を応用した解析手法によって、広帯域における時間的な変化を調べた。その結果、ヒーリング・オルゴール試作機の演奏音には、時間的にミクロなゆらぎ構造を伴う50kHz以上に及ぶ可聴域上限をこえる高周波成分が豊富に含まれることを見いだした。 次に、ヒーリング・オルゴール演奏音の超広帯域録音物を呈示試料として、非定常なゆらぎをともなう高周波成分を豊富に含む音(FRS)と、そこから22kHz以上の高周波を除いた音(HCS)とを被験者に呈示し、それぞれの音について、最適聴取音量を調整する行動学的評価実験を行った。その結果、高周波成分を豊富に含むFRSは、その高周波成分を除いたHCSよりも大きな音量で聴取されるという行動的反応が、統計的有意に導かれた。あわせて行った質問紙調査による心理的評価では、被験者は音が快適であり、耳障りでない音量に調整していたことが示された。さらに、FRSをHCSよりも大きな音量で聴取するという行動的反応が、何らかの原因でFRSがHCSよりも小さな音として知覚されているのではないかという作業仮説の成立可能性を検証するため、FRSとHCSとについて、主観的に同じと聴こえる音量(主観的等価値)を求める知覚実験を行った。その結果、FRSとHCSとの主観的等価値の間に明瞭な差はみられなかった。以上の検討から、FRSをHCSよりも大きな音量で聴くという行動的反応には、FRSはHCSよりも人間の心身にとって適合性・親和性が高いという先行研究による知見(ハイパーソニック・エフェクト;大橋ら)が関与している可能性が高いと考えられる。
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