本研究は上方と北海道を結ぶ舟運のルート上で、美術についてどのような交流が見られるかを、主として現地に遺された美術作品を通じて探っていくものである。そこで本年は、北前船の寄港地13箇所を直接訪ねて現地の資料を収集することに努めた。訪ねた町は、北から、小樽市、江差町、松前町、函館市、酒田市、富山市、金沢市、加賀市、河野町、敦賀市、宮津市である。また、直接の寄港地ではないが、最上川の水運を通して深い関わりを持つ、山形市、河北町にも足を運んだ。 全体として、上方文化の影響をなんらかのかたちで遺している所が多いことがわかった。松前町や函館市に多く所蔵されている当地の絵師、蠣崎波響作品には、京都の円山四条派の作風のものが多い。山形市の山形美術館には、「紅花図屏風」で知られる横山華山の作品をはじめとして、京都の絵師の手になる作品が多い。また、山形には先の波響の作品も所蔵されているし、福井県の河野町にアイヌ絵がのこっているなど、逆方向の影響も見いだすことができた。 しかしその一方で、歴史資料に比べ 、美術作品は散逸の度が甚だしいということも、実際に調べてはっきりした。上に挙げた町では、かつての水運業による繁栄を偲ばせる資料館があり、様々な展示を行っている。しかしこれらを見、またその地の人の話を聞くと、古い良質なコレクションがのこっていることは稀であった。特に今回の調査の主眼である絵画などは、市場価値も高く、戦後急速に失われてしまったようである。逆に、資料館を整備するために、最近になって京都方面から作品を購入しているケースも見いだされ、ある意味、美術交流は現代にも続いているということがわかった。
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