西洋美術史において芸術家とパトロンの関係に対する研究はきわめて今日的なトピックとなっているが、日本美術史研究においては公家や大名のそれについては先学があるものの町衆階級に関してはあまり例を見ない。本研究では、この点に関して18世紀後期の絵師円山応挙とその有力な庇護者である三井家との関係から制作された作品群の検証を行う。上記研究目的を達成するため、国内外の美術館・博物館および個人所蔵の三井家旧蔵になる円山応挙作品の実見調査と写真撮影を行う。 平成12年度中には、かねてより三井家が寄贈した円山応挙の掛幅10点を含む全11点が収蔵されていることが確認されていたドイツ・ケルン東洋美術館にて資料調査を実施した。同美術館の三井家旧蔵作品については『秘蔵日本美術大観』(講談社)でその一部が紹介され、また東武美術館にて展示されるなど既知の資料もある。しかし、このたびの調査では従来知られていなかった作品中にも技法上注目すべき応挙の優品を認められた。国内の個人所蔵資料調査においては、三井家が応挙の孫である応震に制作を依頼し寺院へ奉納した「釈迦八相図」を発見した。さらに三井家旧蔵の文人画を確認した。三井家より美術工芸品の寄贈を受けた三井文庫は文人画を所蔵しておらず、三井家は同ジャンルの絵画を収集していないものと考えてきた。しかし本作品の存在により三井家コレクションの全体像に広がりを見いだせたことは大いなる新知見である。
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