研究概要 |
本研究では,短時間内に2課題を連続して実行する事態を設け,(1)課題切り替え負荷の発生条件を体系的な実験で明らかにし,(2)そのメカニズムを,時間経過を考慮してモデル化することが目的であった.課題切り替え負荷の発生条件を特定するために,高速逐次視覚呈示法を応用した心理実験を行った.この方法では,複数の妨害刺激を同じ場所に短時間内に順に呈示してゆき,被験者は,その中に含められた2つの標的刺激を見つけだすという課題を行う.具体的には,課題切り替え負荷の発生条件を特定するために,次の点に注目した.a)2標的間の空間的関係(標的位置の同異),b)2課題の性質(同じ課題か,異なる課題か),c)切り替え負荷の時間的特性,d)標的後に呈示される物体のマスキング特性. これらの点についての実験の具体的な成果は次のとおりである.a)2標的間に少なくとも視角0.5°の位置と課題のシフトがある場合,第2標的への視覚マスキングを伴わなくても,第2標的の見落としは起こることが見いだされた.位置のシフトのみの場合,視覚1.0°離れていれば見落としは起こる.従来の研究では,第2標的への視覚マスキングが不可欠と考えられてきたが,本研究は,課題切り替えが見落とし発生の要件の1つであることを明らかに示している.b)2課題が入力特徴で異なる場合と,反応で異なる場合,および入力特徴と反応で異なる場合の3条件を設けた実験の結果,少なくとも入力特徴で異なる場合で第2標的の見落としが発生した.したがって,入力特徴の切り替えが課題切り替えの本質であるといえる.c)課題切り替え後,成績がもとのレベルに戻るまでには500-700msを要する.d)標的後に呈示される物体は,置き換えマスキング(従来の逆向マスキング)ならば常に第2標的の見落としを生じる.統合マスキングでも,課題切り替えがあれば見落としを生じる.
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