視覚による「運動からの構造復元(SFM)」においては、物体の運動方向(垂直方向か水平方向か)によって、知覚の質や閾値に微妙な差が見られることが報告されている。これは通常、垂直方向には恒常的に重力がかかっていることに由来すると推測される。一方、近年盛んに行われている核磁気共鳴機能画像法(fMRI)においては、横臥状態での計測が強いられることから、そこで得られる脳活動が通常の姿勢における脳活動と同一とみなしうるかどうかには、検討の余地がある。そこで本研究では、物体の運動方向と観察者の姿勢との関係、およびそれを考慮に入れたfMRIパラダイム開発を計画した。 本年度は、先行研究によって知覚印象が確認されている知覚刺激を使用して、対照データとなる基本的な脳活動をfMRIによって計測した。知覚印象の安定性をSOA(stimulus onset asynchrony)でコントロールして、SFM知覚が1)安定、2)不安定、3)不成立の3種類の刺激を用意した。すべての刺激に対して賦活したのは、MT野を含む両側の後頭頭頂接合部、右後頭葉、両側頭頂間溝であった。安定したSFM知覚が成立する刺激に対しては、左後頭頭頂接合部に2ヶ所の独立した賦活のピークが検出されたほか、両側上頭頂小葉も賦活した。SFM知覚の安定性に関する脳賦活計測はこれまでに行われておらず、物体の運動方向と観察姿勢がSFM知覚印象に与える影響を探るための重要な基礎的なデータが得られたものと思われる。 次年度は、物体の運動方向の変数を加味した、後半の実験を行う予定である。
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