研究概要 |
本年度は,SPTs(subject-performed tasks;被験者実演課題)のパラダイムを用いて行為の記憶について実験的検討を行った。SPTsとは,被験者に簡単な行為の内容を表した文(例:ひざをなでろ)を呈示し,被験者自身がその行為を実演するという課題であり,このSPTs条件と,行為の実演はせずに単に言語的に学習をする文条件との,記憶成績の比較を行った。また,行為の記憶の測定に際しては,再認判断時のRemember(思い出せる)反応とKnow(分かるだけ)反応の区分を用いて,SPTsの記憶が優れるというSPT効果の生起要因が,記憶検索時の意識的な想起(Remember反応により測定)と,記憶の無意識的・自動的な利用(Know反応により測定)のどちらなのかについてを確認した。さらに,学習時に呈示される行為文に対する処理水準を操作し,SPTsと文の記憶の想起過程の質的差違について検討した。被験者に各行為に対して,浅い処理(その行為を行う際に発生する雑音の大きさの評定)を求める条件と,深い処理(日常生活の中での使用頻度の評定)を求める深い処理条件とを設けた。 実験の結果,次のことが明らかになった。1.学習時の実演による,記憶の優位(SPT効果)はRemember反応でのみ見られたことから,検索時の意識的な想起に依存することが示された。2.学習時に実演をしない文条件では,Remember反応に処理水準効果(深い処理を行った情報の方が想起されやすい)が見られたのに対し,SPTs条件ではRemember反応にも処理水準効果が見られなかった。これらのことから,行為の記憶の優位は意識的な想起によるものであるが,その処理過程は,言語事象の想起過程とは異なるメカニズムに支えられていることが示唆された。
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