研究概要 |
本研究は,人間における視覚運動信号の統合過程を心理物理学的実験によって検討することを目的としている.本年度の研究から以下の4点の成果が得られた.なお,研究の一部は科学研究費奨励研究(A10710026)の成果を発展させたものである.第一に,輝度に基づく一次運動とテクスチャなどに基づく二次運動について,視覚探索の手法を用いて処理過程の違いを検討,二次運動処理における注意資源の必要性とそのメカニズムについて論じた(Journal of the Optical Society of America誌に投稿中).第二に,Harvard大学などと共同で注意に基づく能動的運動知覚に関する実験を行ってきたが,追加実験を行った上で一連の研究をまとめた論文が掲載された(Culham et al.,2000,Neuron誌).低次の運動検出器によるボトムアップの運動信号と注意によるトップダウンの運動信号が比較的高次の運動表現段階において統合され,知覚に至る過程が議論された.第三に,Ouchi錯視と呼ばれる動きの錯覚現象に関する実験結果について,刺激要素サイズと最適空間周波数の関係および空間周波数同調関数を検討した結果,この錯視に関与する局所的な運動方向決定過程とより大域的な信号統合と面の分離を行う過程の特性の違いが示された(Vision Research誌に投稿中).第四に,知覚認識のための視覚経路と腕などの運動制御を支援する視覚経路において,運動信号と位置信号の統合様式の違いを検討する実験を行い,輝度に基づく視覚運動が腕の動きのための予測的な符号化を促進するのに対して色の変化に基づく視覚運動はそのような促進を伴わないことを示す結果を得た.第三点,第四点についてはさらに検討すべき課題が示され,次年度に継続して研究を行う予定である.(771文字)
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