まず、手話能力評価を行う前に、手話言語環境にある聾児がどのような過程で手話言語を獲得するのかについて明らかにする必要があると考え、聾児の手話言語獲得過程について研究を行った。その結果、喃語出現時期、初語、2語文表出時期など、主要な言語獲得のマイルストーンは、音声言語のそれとほぼパラレルであった。このことから、音声と手指という使用モダリティには違いはあるが、手話言語と音声言語の獲得過程はほぼ同じであると考えられ、手話評価法を考える際に、音声言語の評価法がかなり参考になることが分かった。 次に、手話能力評価を行うに際し、成人聾者の使用する日本手話にどのような特徴があり、どの項目が手話能力を測定する尺度として使用できるのかについて明らかにするために、国立身体障害者リハピリテーションセンター研究所で福田友美子氏らが用いている手話例文をもとに、成人聾者に例文の模倣を求め、例文と模倣文の比較から、手話能力を反映していると考えられるいくつかの尺度を抜き出した。例えば、手型や運動などの手話単語を構成する音韻、文法マーカーの役割を話している表情、指さし、ロールシフト、手の動きを変化させた動詞の屈折などが考えられた。今後、そのような尺度から、手話獲得途上の聾児、第二言語として手話を学習している聴者などにも同様の実験を行い、手話能力測定の尺度としての信頼性と妥当性を検討する予定である。 なお、研究成果は、日本特殊教育学会(静岡)、日本手話学会(東京)、世界ろう教育会議(オーストラリア・シドニー)などで発表された。
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