本研究は、知的側面と運動的側面の両者において重度の障害がある重症心身障害児の「養護・訓練」(現在、「自立活動」)の指導において従来より多用されていることからこれまで検討を行ってきた、前庭感覚を主とする複合刺激である「ゆらし」の効果に関する研究を、継続、発展するものである。重症心身障害児は著しく行動表出が制限されていることから、コミュニケーション指導という視点で情動的交流を実現するために、児の微笑などの快の情動表出をいかに活発化するかが重要な検討課題となる。そこで本研究は、「ゆらし」を単なる感覚刺激としてではなく、対人的文脈における刺激として捉え、「ゆらし」中の児の心臓活動と微笑などの快の情動表出に関する評価を行い、授業等で実際に行われる指導手段の効果の科学的評価をねらいとした。 具体的には、一試行ごとに、刺激受容中の心臓活動の時系列情報と情動表出の時系列情報から、心臓反応と情動表出の関連を検討した。このようなアプローチによって、従来のような対象者間、あるいは試行間の平均化処理による統計的手法では明らかにできなかった、より直接的な関連性を明らかにした。すなわち、各事例とも「ゆらし」開始後のある時点で心拍値(1秒ごとの心臓の拍動率)が収束する反応動態を示す傾向が認められた。さらに情動表出はこの時点以後に生起する傾向が認められ、心拍値の時間経過の動態との関連が明らかになった。また、「ゆらし」に伴う心臓反応動態の特徴は、各事例で明らかに異なった。このことは、前庭複合感覚刺激の有す生理的作用は、個体内変数によってその影響の表れ方が異なり、その結果の一表現として情動表出が位置づけられることを示唆するものといえた。 上記は本研究費による設備のもとに遂行され、福岡教育大学の研究紀要において発表された。現在も本研究課題は継続、検討中である。
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