本研究は、重症心身障害児の「養護・訓練」(現在、「自立活動」)の指導において従来より多用されてきた、前庭感覚を主とする複合刺激である「ゆらし」の効果に関する研究を、継続、発展するものである。 前年度は、重症心身障害児のコミュニケーション指導という視点で「ゆらし」を単なる感覚刺激としてではなく、対人的文脈における刺激として捉え、「ゆらし」中の児の心臓活動と微笑などの快の情動表出に関する評価を行った。 しかしながら、コミュニケーションを成立させるためには呼びかけに応えるといった刺激応答性が問題となった。重症心身障害児は刺激への応答性が乏しいとされているためである。 そこで本年度は、重症心身障害児において比較的刺激への応答を引き出しやすいとされる呼名刺激への応答性と、それに対する「ゆらし」の影響を検討した。 具体的には、重症心身障害者1例を対象とし、8方向からそれぞれ与える呼名を30秒間隔で行った。心電図を記録し、心臓拍動率(心拍値)を算出した。その結果、臥位姿勢と座位姿勢における各方向からの呼名に対する一過性心拍反応の出現頻度をみると、各姿勢とも加速あるいは減速反応の出現頻度の呼名方向による差異が認められた。このことから、呼名に対する一過性心拍反応は、呼名を与える方向が影響すると指摘できた。またその影響の特徴は、刺激受容姿勢との関連も指摘できた。一方、1周期約3秒の「シーツブランコ」を10周期行う「ゆらし」の後では、加速、減速反応の出現頻度の表れ方が「ゆらし」前と逆転するなど、呼名を与える方向の影響は異なった。 上記は本研究費による設備のもとに遂行された。現在成果がまとまったところであり、これから投稿の予定である。現在も本研究課題は継続、検討中である。
|