平成12年度は、当初から計画していた(1)順次PD(囚人のジレンマ)実験と、新たに計画した(2)集団同一視に関する実験を行った。(1)では、2人のプレイヤーが同時に行動を選択する従来のPDとは異なり、各プレイヤーは、相手が選択する前に自分の選択結果を相手に提示するかどうかも決定する。このゲームは、相手の選択への反応からプレイヤーが抱いている主観的な利得構造を測定し、さらに相手に自分の選択を示すかどうかから対戦相手への信頼を測定することが可能である。実験の結果、相手が協力を示してきた場合には協力を返すという信頼ゲーム型の主観的利得構造の存在が測定された。しかし一方で、対戦相手への信頼と自分の選択を対戦相手に示すこととに関係は認められず、実験状況のさらなる改良の必要性が示された。(2)では、個人間の相互依存関係と集団間の相互依存関係がどのように統合的に認知されるのかを探索的に検討することを目的としている。集団同一視とは、例えばある外集団成員に不当な扱いを受けた場合、その外集団の別の成員へ報復的な行動をとることをいう。この集団同一視の背景には、実際には異なる個人の集合にすぎない集団をあたかも1つの主体として認知し、個人対個人の問題を集団対集団という枠組みでとらえてしまう過程が存在する。その結果、反復的な2主体間では有効な応報的行動パターンが、集団間においても(集団同一視を伴って)発現することとなる。しかしこの集団同一視をともなった応報行動は、本来無関係な成員を報復合戦に巻き込んでいき、集団間の葛藤を継続化・拡散化させる要因となる。実験では、こうした集団同一視を促進する要因を検討したところ、外集団成員が自集団ひいき的な意図から理不尽な扱いをしたと認知された場合、集団同一視による応報行動が生じやすいことが明らかになった。
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