都内の某大学に通う大学1、2年生40名を対象に、日常生活において自己注目を高める操作を行い、個々の学生を追跡調査することで、学生の抑うつ状態の変化を調べ、自己注目と抑うつとの関係について検討した。すなわち、ベースラインの測定→自己注目を高める操作→操作後の変化という流れにより(各期間はそれぞれ3週間程度)、自己注目の影響を調べた。自己注目を高める操作においては、現在の自己の性格やその形成に及ぼした生育環境の影響について日々考えて自由に記載してもらった。すべての人に自己注目がネガティブに作用するわけではなく、人によってはポジティブに作用しうる。そこでその記載内容を詳細に検討し、抑うつ性との関係について検討した。その結果、抑うつ的な人は、自分を否定したり、ネガティブな自己に注意を向け続けたり(自己没入)することがわかった。さらに客観的な視点から、多面的に自分を眺めることができないという特徴も見られた。それらの背後にある要因として、他者への信頼性の低さや他者への開放性の低さなどが見られた。また、思春期に他者から受容されたという経験が乏しいことも関連する要因として見いだされた。反対に、抑うつ傾向が低い人は、自己否定に偏ることなく自己受容的な自己注目をしていた。そして客観的な視点から自分を眺めることができ、受容的に過去の自分を位置づけていた。他者への信頼感があり、自分の気持ちを打ち明けたり他者から学ぶこともできていた。これらの背景には、幼少期・学童期、および思春期に他者に受け入れられたという経験があった。これらの結果については、平成13年度の日本心理臨床学会および日本心理学会で発表する予定である。また現在、これらの結果に基づいて、来年度行う自己注目のあり方と抑うつとの関係についての啓蒙セミナーについてのプログラムを作成中である。
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