研究概要 |
外傷体験を話して(以下,発話)開示することが心身の健康に及ぼす効果について,筆者らはこれまで検討してきた.しかしながら,外傷体験を筆記によって開示する先行研究から予想されるような心身の健康増進効果は認められなかった.その理由として,第1に,開示相手を想定していなかったことが予想された.被験者からは,1人で発話すること自体が不自然である,誰を対象として発話すればよいのか不明である,といった内観が報告されていた.第2に,測定上の問題が予想された.心身の健康に関する指標は,実験終了から3ヶ月後に,回顧的に測定されたが,この方法は測定精度が低いことが予想された.そこで,本研究では,他者を想定した発話による外傷体験の開示が心身の健康に及ぼす効果を,実験終了後,2週間後,1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月後の各時点において測定することが目的とされた. 大学生600名から,外傷体験を有し,実験参加への同意を得られた健常大学生16名(男性4名,女性12名)が抽出された.実験計画は,群(外傷体験開示群,中性話題開示統制群)×測定時期(ブリアセスメント,ポストアセスメント,フォローアップ)であった.実験は,1日1セッション3日間3セッション行われた.被験者は外傷経験に関する心の奥底の感情や思考,または中性的な話題を話すよう求められた.精神的健康指標として,外傷体験の重症度を測定するIES-R,外傷体験を想起する際の苦痛度を測定する単項目評定尺度,精神的健康度を測定するGHQ28が用いられた.身体的健康指標として,医師訪問回数,欠席日数,薬物服用回数に関する自己報告が用いられた.2週間フォローアップまでのデータ分析の結果,両群ともに精神的・身体的健康の有意な増進が認められたが,群間の差異は認められなかった.現在,フォローアップによるデータ収集を継続中である.
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