中山間地域の棚田を、農村地域および都市域の住民にとってのコモンズ(共有財)と定義し、その保存・維持活動を通じて両地域の住民が形成するネットワークの発展過程について調査を実施した。 本年度は、都市域住民に棚田を1年単位で貸し出す棚田オーナー制度を近畿圏で実施している町村の中から、兵庫(大屋町・美方町)・京都(伊根町)の計3地点を調査対象とした。特に京都府伊根町へ重点を置き、筆者はここで棚田オーナーの申請をして、参与観察をおこなった。伊根町では、棚田オーナー制度の実施に必要なさまざまな業務がほとんど町内外のボランティアによって担われており、自治体(行政)が主体とはなっていない。この点は、兵庫県内における他の2つの調査地点と大きく異なっている。 地域社会の属性の共有・コモンズ維持の共同作業という2つの要素が、その農村地域に対する評価や帰属意識にどのような影響を及ぼすか、本年度はまずこの点について予備的知見を得る必要があった。そのため、伊根町において実際に棚田を貸し出している地元住民と、棚田のオーナーとなって伊根町を訪れる都市住民の双方にインタビュー調査をおこなった。漁業を主産業とする伊根町の地元住民にとって、棚田は既に主たる収入源とはなっておらず、生活上の用途がほとんどなくなっていたため、棚田オーナー制度の今後の発展には懐疑的な意見が多く見受けられた。一方、主に京阪神地域の居住者が多かった都市住民は、棚田の維持活動に積極的な意義と楽しさを感じてはいるものの、伊根町が地理的に遠距離であるため、年間を通じて活動に参加することへ困難を感じると回答する者が多かった。棚田オーナー制度を通じた農村地域と都市域との継続的なネットワーク形成には、両地域の物理的な距離が大きな要因となっている。このため、今後は京阪神からより近距離の地域(兵庫県大屋町など)を視野に入れ、調査を継続していく予定である。
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