【目的】 近年、経営管理的な問題をはじめとする組織因子によって誘発される産業事故、すなわち"組織事故"に関する研究が活発化している。これは、産業事故の発生原因を技術的な問題や個人の問題に限定することなく、組織全体の問題としてトータルに捉えようとするものであり、産業事故防止に対する新たな視点として注目されている。しかしながら、未だ従来の研究では、組織事故の発生プロセスを特定するには至っていない。そこで本研究では、平成11-12年度の2ヶ年を通して、組織因子と産業事故の発生との関わりを詳細に検討し、組織事故の発生プロセスに関する理論的枠組みを構築することを目的とする。 【実施概要】 平成11年度は仮説的な組織事故モデルの構築を行った。まず第1に、安全に関する組織研究(組織信頼性研究/安全文化研究など)についての広範なレビューを行い、既往研究にて確認されている組織因子を同定した。第2に、実際の産業組織(化学プラント)を対象としてヒアリング調査を実施し、文献調査にて抽出不足であった組織因子を新たに同定した。第3に、以上の検討を通して明らかにされた組織因子群と産業事故の発生プロセスとの関連づけを行い、両者の関係を特定するモデルの構築を試みた。その検討過程においては、潜在リスク情報を組織はどのように発見し処理するのか、そのような組織の情報処理にはいかなるステップがあるのか、その過程で潜在リスクはどのように組織内に潜伏して事故を発生させるのか、以上3点が明確になるよう配慮した。その結果、6段階の組織情報処理プロセス(情報認知段階、情報検討段階、関連情報収集段階、リスク評価段階、対策立案段階、対策実行段階)を基礎とする仮説的な組織事故モデルが構築された。そして最終的に、当該仮説モデルの枠組みに基づいて、組織因子に関する評価項目(組織のセルフチェック用)を抽出した。これは、6段階の組織情報処理プロセスのそれぞれに関わる組織因子を暫定的に評価するためのものであり、12次元261項目から構成されている。
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