本研究は、人口政策の実施により深刻化している中国の高齢化の課題をとらえ、日本の高齢化問題と比較することを通じて双方の社会的特徴を明らかにすることを目的としている。平成12年度は、まず中国における高齢化研究を中心に進めることとし、合計60日余にわたる中国での調査を行った。以下、本年度の成果をまとめる。 (1)中国東北地域では長春市を中心にこれまでのインフォーマントを対象とするインタビュー及びアンケート調査を実施した。この中で、調査対象地域では同居率の低下が顕著にみられた。また同居している家庭においては、特に祖父母世代と孫世代との三世代間ギャップがかなり顕在化している状況がみられた。 (2)また現地研究者及び行政担当者との面談により、中国東北地域では経済成長が他地域に比べ遅れているために、それが高齢者問題に影響を及ぼしていること、また行政の取り組みの姿勢や居住者の意識のありようが明らかになった。 (3)同時に、首都である北京市、また経済成長の著しい上海市における高齢化問題との比較によって東北地域の特色を探るため、両都市においても資料収集と社会福利院や老人院など高齢者施設の訪問を行った。そこでのインタビューでは、中国大都市圏における高齢化問題の深刻化と社会保障との関係、とくに医療問題などが明らかになった。 (4)また当該地域では東北地域よりも行政の取り組みがよりすすんでいる状況を観察することができた。現在大都市圏では「社区服務」をキーワードとして地域社会における高齢者サービスのありかたを模索しているところであり、社会構造の変動とともに誕生した非営利法人組織が大型の国営養老院の運営を引き継ぐという状況も発生していた。 (5)さらに大都市近郊農村の社会福祉のありかたにも触れることができたが、経済力のある大都市近郊農村においても、農村と都市の高齢者問題にはまだ格差が大きいことが明らかになり、今後の実証研究の課題を明らかにすることができた。
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