本研究では、以下の順で実態調査及び理論研究を行った。それぞれの研究概要と研究実績は以下の通りである。 (1)1990年代フランスにおける移民労働者が、社会権を行使するために機能させている互助組織について調査し、この組織が、フランスの共和国主義と相容れないエスニシティを基盤にした組織であるにもかかわらず、事実上は機能不全に陥った共和国主義を支える役割を果たしている現状を分析し、論文を執筆した。 (2)EUサミットへの異議申し立てを目的として、失業者や移民労働者などによる「社会的ヨーロッパを求める失業者のヨーロッパ行進」を1996年以来実施している社会運動の社会調査を行った。それによって1990年代初期のフランスにおける失業者団体の組織化から、国境を越えて運動が拡大する過程を論文に執筆した。 (3)EU統合にともない域内出身外国人の権利が拡大する一方で、域外出身外国人との権利の不平等が拡大している事実を調査した。社会保障への権利を中心にして実態を分析した論文を執筆した。 (4)1970年以降のEUの移民政策の変遷について調査した。欧州委員会がロビイングや諮問機関を介して外部に開かれた組織機構をもつことから、域外出身移民が居住する国民国家に対してよりも効果的にEUに対して政治的意思を表明する回路をもつ仕組みを分析し、論文を執筆した。 (5)フランスにおける移民のアソシエーション活動の調査結果から得られた知見をもとに、日本における移民労働者のエンパワーメントについて調査した。日本の場合、移民当事者よりも支援組織によるエンパワーメントの基盤が提供されている現状を分析し、論文を執筆した。
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