本研究の目的は、近代日本の精神医療政策を特に欧米諸国との比較・関連で考察することである。これまでの研究の過程で、しばしば日本に特徴的なものと言われる患者家族への看護義務、とりわけ私宅での監護に関する規定は、一時的にせよ例えばフランスにも見られるものであることが判明した。そのため「精神病者監護法」「精神病院法」制定当時の精神障害者関連法案とその前史を、イギリス・ドイツ・フランスを中心に比較し、日本との異動を検討した上で、その相違がどこから由来するのかを考察することを試みた。 フランスについては上記理由のため、またイギリスについては、その精神医療法が当時日本に紹介されているため、ドイツについては、この時代の精神科医の留学先が主にドイツである点からである。 今年度は、一次資料に当たる前段階として、英米を中心にした精神医療政策史に関する先行研究の文献収集を行い、そのレビューを行った。特にイギリスの精神障害者関連法の展開を検討した。フランス、ドイツの研究についてはまだ十分に先行研究にあたることができなかったが、日本についての資料の収集から、この時代の日本における精神病院への入院状況についても、更に詳細な部分が明らかになった。 上記の検討を通じて、英米圏における精神障害者処遇や精神医療関連法に関する研究蓄積や動向がある程度明らかになり、また、M.フーコー『狂気の歴史』が英米圏にもたらした影響の程度を推測することが可能になった。同時に、こうした英米圏の研究が、あまり日本に紹介されていないことも確認された。
|