本研究は、障害者の自立生活介助における相互行為をビデオ分析し、自立生活の日常的方法(method)を明らかにすることを目的とした。ここで焦点が当てられるのは、専門家による「介護」ではなく、障害当事者が自立生活を実践するための「介助」である。調査・分析の手法としてはエスノメソドロジー的な会話分析を用いて実際の介助場面をビデオ録画し、トランスクリプト(転写記録)を起こして詳細に分析する。 本年度は、初年度ということで(1)身体障害者の自立生活運動運動に関する聞き取り調査、参加調査、(2)介助場面、特に介助を教育する場面(介助実習)のビデオ録画の集積と分析考察を中心に行った。 まず、身体障害者の自立生活運動に関しては、日本国内とスウェーデンにおいて聞き取り・参加調査を行った。日本国内のものとしては、札幌いちご会および、社会福祉法人アンビシャスのメンバーに対して聞き取り調査を行い、スウェーデンにおいてはストックホルムとイエーデボリにける自立生活運動の推進者に聞き取り調査を行った。これらによって、アメリカにおける自立生活運動の萌芽を受けて、ホームヘルパー等による「介護」から、障害当事者による「介助」のコーディネートという自立生活思想の実践と、パーソナルアシスタントや障害当事者が介助者を教育・管理してくという世界的な思想展開が明らかになった。 次に、介助場面のビデオ録画としては、上記のスウェーデンにおける自立生活者の介助場面の録画に加えて、障害者自身が講師を務め、学生などを対象とした介助実習のビデオ録画をしてエスノメソドロジー的な会話分析の手法で考察した。これは、札幌いちご会および社会福祉法人アンビシャスの協力の下で買い物、食事、洗面等日常活動などの介助を教育して、自立生活思想を身体化する場面として分析・考察することができた。このなかで自立生活運動の思想が、具体的な相互行為の中で教示され、現実化していくことが見てとれた。 以上のように、本年度は、自立生活運動の思想的背景の考察と、それに基づく介助実践のビデオ録画資料集積・分析ということに専念した。これらの成果により来年度におこなう介助場面の会話分析・ビデオ分析が充実したものになることが期待できる。同様に、ビデオ分析の方法論についての研究成果の発表も行い、最終年度の研究発表に備えた。
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