就労からの引退によって社会的役割が大きく変化する退職世代、および身体能力の低下により社会的役割が大きく変化する後期高齢者の2群を対象として、(1)社会貢献活動の実態把握、(2)社会貢献活動が精神面に与える影響、(3)社会貢献活動を促進・阻害する要因の解明を目的として調査を行った。現在のところ、70歳以上の高齢者を対象とした調査データを分析し、以下の知見を得ている。(1)社会貢献活動を測定する指標の開発:「有償労働」「家族や親族に対する無償労働」「他人への支援提供(友人や近隣に対するインフォーマルな支援提供とボランティア活動)」の3要素から成る社会貢献活動の測定指標を開発した。(2)活動の実態:有償労働やボランティア活動に従事していた人は70歳以上では2割程度であったが、家庭内の無償労働を加味すると8割の人が何らかの社会貢献を行っていた。活動の種類によって性差や年齢差があったが、総合的にみると70歳代の女性が最も社会貢献の遂行時間が多かった。(3)生きがいや生活満足度への効果:活動の種類や性別によって、生きがいや生活満足度に与える影響は異なった。有償労働は男性の精神面に有益で、他人への支援提供は男女とも精神面に有益であったが、家庭内の無償労働は男女とも精神面にマイナスの影響を及ぼしていた。男女による効果の現われ方の違いは、性役割規範などが影響した結果と考えられる。(4)社会貢献活動の規定要因:年齢や健康状態は男女ともすべての活動の規定要因となっていたが、社会的な要因は関連の仕方が活動の種類や性別によって異なった。男性では、有償労働は経済状態と同居家族数が、無償労働は配偶者の有無、同居者数、学歴が、他人への支援提供は学歴が関連を示した。女性では、有償労働は経済状態が、無償労働は配偶者の有無、同居者数、経済状態が、他人への支援提供は経済状態が関連を示した。
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