標記の研究課題による研究の2年目として、初等教育の学力保障の前提となる、児童に課される教育の義務の制度的構造とその理念を明らかにした。フランスでは、教育の権利のみを定めたわが国の義務教育とは対照的に、児童生徒に教育に関する義務が課せられる。この点は、わが国において、たとえば不登校問題によりその学力保障が問題となっていることから見ても、比較研究の素材となる。そこで今年度の研究ではこの点に焦点を絞り、次の点を明らかにした。 1.フランスの学校教育において児童に課せられる義務は、1989年法により法定されている。それは、(1)基本となる第1の義務としての勤勉、(2)学習活動、宿題、試験など学習の全般的編成の規則に従うこと、(3)授業外の共同生活に従うことの3種に分類できる。こうした義務が法定された背景として、1989年法が打ち出したいわゆる「バカロレア80%目標」(同一年齢層の80%をバカロレア水準に到達させ、すべてのものに最低資格の取得を目的とするもの)があり、こうした学力保障の一環として児童の義務を位置づけることができる。 2.さらにこうした学校教育における児童生徒の義務は1989年法の定める目標の1つのである「市民性の教育」の一部を構成する。フランスで言うところの「市民」は1789年人権宣言の「市民」であり、主権の行使と国家意思の形成に参加する諸個人を意味する。そして、その養成とは「偉大な文化」ともっとも抽象的な推論に達することにより自律的個人を育成することであり、この意味からも学力保障と児童生徒の義務は関連を有するものである。 なお、同研究をまとめ、日本教育経営学会の紀要に投稿し、審査の結果、掲載が決定している。
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