本年度は、まず問題枠組みの整理を行なうため、既存のデータや先行研究の収集、分析を進めた。具体的には、イギリス、アメリカ、中国、インドにおいてそれぞれの高等教育機関がどのような発展を示し、その中で、それぞれの国がどのような形で財政の問題に取り組んでいるのか、私的負担のあり方はどうなっているのか、特に私的負担が大きい私立高等教育機関がどうなっており、どのような形での奨学金政策が望ましいかについての考え方の整理を行なった。特にアメリカにおいては、ニューヨーク州立大学のBruce Johnstone教授やDaniel Levy教授等を訪問し現在の高等教育の財政、奨学金政策のあり方についての世界的動向についての意見交換を行なった。2月には、中国で、廈門大学高等教育研究所の協力を得て中国の私立高等教育機関に対し、学費や奨学金政策等に関する調査を実施した。日本でも、私学高等教育研究所等との連携の中で、現在の奨学金についての実態資料の収集に努めた。 以上のことからわかってきたことは、世界銀行のレポートにもあるように、ここ10年ほどの間にヨーロッパやアジア・ラテンアメリカ諸国において高等教育の拡大・大衆化が進行し、世界の高等教育地図が、根本的な変化を起こしていることである。Johnstoneの奨学金やコスト・シェアリングについての研究、Levyの私立高等教育の研究はともに、中国やロシア、インド、ブラジルなど、人口が多い国での教育拡大に注目している。この背景には、これらの国での教育システムの拡大により、中国、インドはすでに日本を凌ぐ高等教育人口を擁し、しかも経済的な問題は依然として深刻なことがある。次年度は、この状況変化を踏まえ、さらに研究を進めていくことを計画している。
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