本研究は、就学前教育機関と小学校における「クラス」の規範の内容、および、規範の共有化過程の記述を、日本と外国におけるデータの比較民族誌から導き出すことを目的としている。二年目にあたる平成13年度は、前年度の方法論の検討および事前調査の知見を踏まえ、オーストラリアの就学前教育機関でフィールドワークを実施し、比較データの収集・補強をはかった。調査対象の教育機関は、教育理念・地域の特性を考慮して、異なるタイプの二つのチルドレン・センターを選び、それぞれ、保育場面の集中的な観察を行った。これらの観察は、現地のマッコーリー大学倫理委員会に申請し、倫理面の審査を経た後に、実施されたものである。また、オーストラリアと似かよった歴史的背景をもちながらも、独自の教育政策を展開しているニュージーランドの保育・教育に携る研究者・教師らと、関連分野の情報交換を行い、西欧文化内の多様性をカンファレンスで議論する協力体制を強化した。 最終的なデータ検討と考察は次のような手続きでまとめられた。まずは、外国における比較データに先立って、これまで長期にわたって収集・整理してきた日本の就学前教育機関と小学校におけるデータ・インデックスのなかから、「クラス」の規範に焦点を絞ったプロトコルと画像を抽出し、「クラス」の意味が生成されていく過程を子どもの解釈学的エスノグラフィーの立場から検討した。さらに、日本、オーストラリアおよびニュージーランドでのカンファレンスの議論をもとに、文化内の多様性のなかにも、ある種の独自性が存在することが明らかにされた。それらの結果は、比較民族誌の手法によって抽出された成果である。その一部は、「文化摩擦への理解と実態把握」(全国保育士セミナー全国保育士養成協議会)、「子どもの解釈学的エスノグラフィー:発達支援との接合」(第13回大会日本発達心理学会)などのシンポジウムなどを通して公表している。
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