神聖な空間としての墓地というものを対象化して、植民地以来の歴史的公文書や地図などを検討して、「今日における植民地主義の再生産と記憶:シンガポールにみられる「神聖」な空間の利用をめぐって」と題した共著論文にまとめて発表した。 土地をめぐる記憶、そこに住んでいた人にとっての記憶というものが、どのように形成され、またそれがどのような必然性を帯びたものとなっているのか、記憶についての「語り」から検証していくことによって、空間の支配と被支配の関係を明らかにすることができた。さらに、華人と呼ばれる中国系の人々の宗教的な活動や親族体系について今回の研究の一環として書評論文を2本まとめることができた。これらは、香港の広東系の人々についてのものであるが、華人研究の一つとして、今後の本研究に対して新たな側面を気づかせる大変有用な論文を作成することができた。ほかにも今年度の研究の一つとして、墓地以外の「神聖」な空間として認識されているほかの宗教施設に関わる研究資料を集めることができたことは大きな収穫であった。これらは来年度研究論文としてまとめて、発表したい。 また、今後は多くの移民が移住してきているという極最近の社会的現実を踏まえて、シンガポールの国民国家としての揺らぎとそのなかに存在する神聖な空間と空間を神聖なものとして認識している人々との容れ子の構造を政治的にあるいは社会構造的に明らかにしてゆきたい。この検討によって、集合的記憶と神聖空間は国民国家概念という枠組みのなかで深い連関性を持ったものになってくる。
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