日本華僑社会において、近年新たな伝統の創造の動きが顕著であり、急速な変化が起こっている。本研究の目的は、日本華僑における「新伝統祭祀」の創出に着目し、その過程と論理を実証的究明することである。調査研究を通して、「新伝統祭祀」創出とその特徴についての次のような要因が明らかになった。 1)華僑第一世代の出身地、移住先のコミュニティ形成など-華僑の出身地の伝統文化は様々な形で移住先に持ち込まれた。移住の規模や歴史的背景により、それは大きく異なる。日本では同郷組織や新たに形成される地縁的組織などが伝統文化継承の主体となっている。 2)華僑第二世代の日本への定着・社会-日本で生まれ育った華僑の二世・三世は、日本社会の中で定着・社会化してきたことにより、多元的なアイデンティティを持つようになった。中で中華街で商売を営む華僑たちは、自らに有利な「文化資本」として中国文化を選択し、新たな伝統継承形態を形成した。 3)本国との関係-日中関係の変化が日中平和友好条約締結後、国際交流が促進されたことによって、本国における伝統文化の復興の動きが華僑社会に大きな影響を与え、華僑の伝統文化の復興・再編の大きな外的要因となった。 4)地域活性化と観光開発-中華街の地域の町興しのための観光開発の要請が、伝統文化を新たに創出するきっかけとなった。華僑社会の変化とともに、中華街は華僑独占の地域ではなく、日本人と共存する地域となっていた。そのため、町興しの主体が日本人を含めた振興組合となり、それが伝統文化継承の新たな組織形態を形成した。 中国伝統文化創出に関連する要因は以上のように明らかになったが、特にそれらが華僑のアイデンティティーの変容とどのような関わりを持っているかなどをこれからの調査研究課題とする。
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