本研究では、山口県下関市をフィールドに、在日コリアン社会で語られている世間話について、その語りの場、ネットワークのあり方、語りの機能について調査・分析を行なっている。本年度は、下関市内の在日コリアン集住地域においてインテンシィブな参与観察を行ない、 (1)世間話の聴取と語りの場(長屋の井戸端会議、頼母子講、朝鮮市場内の喫茶店・理髪店、公衆浴場、チェサ=法事など)の分析的把握、 (2)語りの伝播・伝承に関わる社会的ネットワーク(頼母子講、行商仲間、同業者、親族会など)の調査、 (3)世間話の背景となる生業、生活諸相、地域形成史の民俗誌的調査、を実施した。 その結果、多くの世間話の話例を採集すすことができた他、語りの場の構造やネットワークの形成・発展過程、地域の民俗誌データについて十分な把握を行なうことができた。 とりわけ、在日コリアンの間では、世間話を語るという行為が、彼らの「想像の共同体」としての「在日」社会像生成に直結していること、同一「民族」間での婚姻を志向する場合、その実現へ向けての情報交換、およびその後のさまざまな情報/民俗的知識の交換に、世間話の語りが大きな役割を果たしていること、総じて、社会的マイノリティとしての在日コリアンが彼ら独自の生活戦術を構成する主要な領域として世間話の語りという行為があること、などの知見を得ることができた。 次年度は、本年度の調査結果を補足しつつ、叙上の知見にもとづくより精細な分析を展開する予定である。
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