昨年度の調査により発見して整理を開始した元内務省警保局長小野田元熈の関係文書について、政治史、地方史など各方面の研究者による利用が期待できることから、谷口裕信氏らの協力を得て、公務に関する、またはその可能性がある書簡78通の全文翻刻を行い、発表した。 地方都市における消防の近代化については、書籍および同時代の新聞雑誌を実物または複写で収集し、前年度収集の者とあわせて分析した。その結果以下の点が明らかになった (1)前年度軽視していた明治27年の勅令消防組規則制定は、確かに主要都市ではあまり影響を及ぼしていないが、群馬県の桐生町では消防組の大整理(人員削減)の契機となっており、これ以下の規模の町村では大きな影響が見られる。(2)地方都市での消防の近代化は、明治初年の近世以来の消防組の再編、明治10年代の腕用ポンプの導入、明治末年ないし大正初年の蒸気ポンプ導入、大正期のガソリンポンプ導入、大正末年ないし昭和初年の自動車ポンプ導入と進展し、腕用ポンプ導入が警察による消防組把握の契機となり、蒸気ポンプの導入が在来消防組員に場合によっては専従者を加える新たな組織を生み出し、ガソリンポンプの導入は組織を変更せずに人員削減をもたらし、自動車ポンプ導入は常備消防を生み出すというのが一般的で、これに副わない部分は地域的な特性とみなせる。(3)横浜の居留地消防はアメリカの消防に近い蒸気ポンプと義勇消防隊の組み合わせからなる特殊な者で、他他域への影響は乏しい。(4)盛岡の消防は勅令以降も旧組である各部の独自性が強く、自動車ポンプも常備ではなく各部によって導入される。これは伝統に依拠する各部の資金調達力の強さに由来すると考えられる。(5)東京から東北地方への消防の組織、技術の波及は江戸時代から断続的に見られる。明冶初年における担い手は主に鳶職であったが、腕用ポンプの導入を契機に警察へと変わる。
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