本年度は、植民地台湾における「学知」の展開の解明を軸にすえ、以下で述べる二点を具体的なテーマとして研究をすすめた。 まず第一に、歴史を書くという行為と植民地主義との関連を、人類学的「知」を備えた植民地官僚・伊能嘉矩の「台湾史」記述にそくして考察した。特に(1)伊能の台湾先住民に対する「人類学」的調査と「台湾史」記述の関連性の解明、(2)伊能の「台湾史」記述に貫かれている歴史観の分析、(3)世紀転換期のおける日本の知識人の「中華文明」観の分析、といった観点から考察を深め、論文「植民地主義と歴史の表象-伊能嘉矩の『台湾史』記述をめぐって-」(『日本史研究』462号)として発表した。 次に、台湾の植民地支配と法学的「知」の関連を、台湾住民の国籍をめぐる論争、とりわけ台湾先住民をめぐる議論を素材として考察した。具体的には(1)台湾領有直後に、法学者、山田三良と山口弘一の間で交わされた国籍選択条項をめぐる論争の争点を分析し、次に(2)領台後約10年を経て、台湾の植民地官僚の間で行われた台湾先住民の法律上の位置をめぐる議論を整理し、その思想構造を考察した。このテーマについては、2000年度日本思想史学会・大会で、「植民地主義と『学知』-台湾先住民に関する法学的言説を中心に-」と題して報告を行った。そしてその後、学会報告での質疑応答などを参考とし、さらに文献資料の収集と分析を進め、現在、論文としてまとめる準備を行っている。
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