本年度は、台湾領有という事態および植民地台湾における「学知」の展開が、日本「内地」にどのような影響を与えたのかという問題解明を軸にすえ、以下で述べる二点を具体的なテーマとして研究をすすめた。 まず第一に、台湾領有に象徴されるような日本の「帝国」への移行という問題が、日本「内地」に具体的にどのような影響を及ぼすのかを、世紀転換期の大阪という都市空間にそくして考察した。特に「貧民街」強制移転問題に焦点をあて、(1)公衆衛生観念と帝国意識の関連、(2)「世界都市」という都市のグランドデザインと帝国意識との関連といった観点から分析を深め、論文「帝国の博覧会と『東洋の商都』大阪-世紀転換期の帝国意識と『貧民街』移転問題をめぐって-」(『歴史研究』第四八号)として発表した。 次に、台湾領有戦争をめぐる日本「内地」の戦争報道に焦点をあて、植民地支配に先だって行われた暴力の行使を、宗主国の側はどのような戦略で表象し、台湾を認識する際の知的枠組を形成していったのかを考察した。具体的には特に、(1)新聞や雑誌の台湾領有戦争に関する報道記事の中の台湾像・台湾人像の分析、(2)台湾領有戦争における皇族軍人・北白川能久の「死」をめぐる報道の分析を中心に考察をすすめた。このテーマについては、愛知教育大学歴史学会2001年度大会や比較日本文化研究会2001年度研究例会などで報告を行った。そこでの議論を参考に、さらに文献資料の収集と分析をすすめ、現在、論文としてまとめる準備を行っている。
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