本研究では、大坂の知識人社会のありようについて、木村蒹葭堂を通して考察することを課題としている。平成12年度は、いまだ明らかとなっていない蒹葭堂と学術との関わりを検討すべく、各地に散在する蒹葭堂の著述や蔵書、書状類を閲覧・収集する基礎的作業を行った。蒹葭堂に関係する書籍を多く所蔵するのは、1国立公文書館内閣文庫、2国立国会図書館、3杏雨書屋、4西尾市岩瀬文庫、5大阪府立中之島図書館である。また、1冊から数冊程度で所蔵するのは、6天理大学附属天理図書館、7慶應義塾大学幸田文庫、8東京都立中央図書館加賀文庫、9宮内庁書陵部、10無窮会東洋文化研究所専門図書館、11阪本龍門文庫、12東京大学史料編纂所、13徳島県立図書館、14大阪市立大学森文庫、15お茶の水図書館成簀堂文庫などである。このうち、閲覧業務停止中のため利用できなかった4、15、国文学研究資料館収蔵のマイクロフィルムを閲覧した13以外は、各所蔵機関でそれぞれ閲覧した。また14に所蔵する『消日屑筆』(巻12〜14)は、蒹葭堂の著述とされてきたが、少なくとも初代蒹葭堂とは関係がなかった。本研究では、初代蒹葭堂以外は考察の対象から外している。 上記のうち最も点数の多いのは蒹葭堂旧蔵書が収められている1である。しかし現在、蒹葭堂旧蔵書として認識しうるのは蒹葭堂の蔵書印のあるもののみであり、それに従えば大半は漢籍で、和書のうちでは随筆・雑考、漢詩文、中国地誌などが比較的数が多く、蒹葭堂自筆あるいは自筆と思われる書き込みに、故実書を引用しての考証が散見された。しかし、5に所蔵される蒹葭堂蔵書目録にははるかに多くの書名が挙がっており、この目録と蒹葭堂蔵書との関係、および現存の旧蔵書との比較検討が今後の課題となる。また、3には蒹葭堂自筆の『本草綱目解』47巻があり、蒹葭堂の本草学を知りうる史料であり、次年度以降内容について検討を続ける。
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