昨年度までに行った史料所在状況の調査にもとづき、北海道立文書館が所蔵する開拓使文書から、関係する文書をマイクロフィルム等によって網羅的に撮影し終え、また、同館が作製している件名目録を複写によって入手したうえでそのデータベース化に着手し、内容の分析を進めつつある。あわせて、かつて抄出のうえ筆写された開拓使文書中の関係史料を所蔵する北海道立図書館と鶴岡市立図書館において史料調査を実施し、今後道立文書館所蔵の原史料との照合によってその欠を補う作業をおこなうための素材を得た。これらの諸機関のほか大阪府立中之島図書館・国立公文書館・文部省資料館史料館・市立函館図書館・北海道大学附属図書館などにおいて、樺太アイヌおよび樺太史に関する史料の所在状況を調査し、複写等により関係史料の収集をおこなった。 主要な分析対象が官庁文書であることによる視角の偏りを補うことを主な目的に、直接の検討対象である明治初期よりも後の時期を含む民間による記録の収集を、新聞史料を中心に部分的ではあるがおこなった。また、開拓使内部の政策決定過程のあり方とその背景にあるアイヌ観を検証するため、今年度は特に開拓使札幌本庁の責任者であった松本十郎に関する史料を集中的に収集した。その結果、開拓使が樺太アイヌを宗谷から石狩の対雁に強制的に移住させた1876年夏頃を境に、開拓使内部の権力構成に変化があり、開拓使のアイヌ民族に対する政策全般から漸進主義的な要素が薄れたのではないかという現段階での仮説を得た。
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