今年度は、前4世紀のマケドニアとギリシアの政治外交史を多角的かつ有機的に考察するという研究目的のため、ギリシアの諸地域について、フィリポス2世の政策及び勢力浸透の過程やフィリポス以前の時期におけるマケドニアとの関わりを検討するという課題に、昨年度に引き続いて取り組んだ。とくに、昨年度には十分検討できなかったボイオティア・ペロポネソス・エウボイアについて重点的に考察し、これらの地域におけるフィリポスの関与を史料に即してあとづけ、フィリポスの計画の中でのこれらの地域の重要性を明らかにした。これらの地域が、昨年度に重点的に考察したカルキディケ・トラキア・テッサリアといった地域と同様に、フィリポスの計画全体において大きな比重を占めていたということは、フィリポスのギリシア征服についての従来のアテナイ中心主義的な歴史像の修正につながるものと言える。また、フィリポスの父アミュンタス3世とフィリポスの政策の間にかなりの連続性が見られるという昨年度の試論をさらに補強するために、前4世紀前半のギリシアの国際関係をマケドニア側の視点から検討するという作業を進め、前4世紀前半のギリシア世界におけるマケドニアの位置づけについても考察した。さらに、ヘレニズム期へ移行していくアレクサンドロス大王の時代についても検討し、前4世紀のギリシア史全体の文脈におけるマケドニアの発展という視点からも考察を試みた。こうした考察によって得られた前4世紀を通じてのマケドニアの政策の連続性と変質についての試論を、様々な角度から細かく検証していくことが、今後の課題となる。
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