研究概要 |
本年度は,考察時期を1860年に限定し,ナポレオン3世の経済改革をめぐってひきおこされた議論の全体像を探り,「権威帝制」の権力構造を明らかにすることが主な目的だった。そのために研究事例としてとりあげたのは,同年5月23日に制定された砂糖関税法と,その制定過程をめぐる議論(政府および議会)や院外圧力(ボルドーをはじめとする国際貿易都市)である。研究を遂行するため,九州大・東京大やパリ国立古文書館などで関連の各種資料を収集した。資料分析の結果,砂糖関税法制定において,帝制指導部は植民地砂糖利害にたつ議会側の要求に譲歩を重ねる様子が浮かびあがってきた。植民地砂糖利害にたつボルドーなど貿易都市の要求は,国内のテンサイ糖業と先鋭に対立していたが,法制化において強硬に主張を貫いたのは,どちらかといえば前者のほうだった。他方ボルドー指導層は,法制化を有利に進めようとの運動を院外において精力的に展開していた。このように,帝制指導部と「自由貿易勢力」とのある種の連携が,「権威帝制」(従来,「自由」とは対極の体制であると理解されてきた)の主要な特質のひとつだったという逆説を指摘することができるだろう。 以上の成果の一部は,「第二帝制下における国際商業都市ボルドーの自由貿易主義〜1860年前半期の運動について〜」『西洋史学論集』(第38号,19〜38頁)として公表された。なお本科学研究費補助金での研究は,わたくしの博士論文作成にも寄与し,これと内容の面でも重要な箇所で部分的に重なっている。学位・博士(文学)は,同年9月12日付で九州大学からを授与されたことを付記しておく。さらに,博士論文と科学研究費補助金での研究成果をももりこんだ書籍を来年度に出版することを期して,貴会への出版助成申請の結果を鶴首しつつ,研究・執筆を継続しているところである。
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