研究概要 |
平成12年度は,当初の予定通りできるだけ多くの人骨資料を実見し,データベースを構築することに主眼をおいた。本年度中に人骨を実見できたのは,国立科学博物館,東北大学,京都大学,九州大学,鹿児島県立埋蔵文化財センターに保管されている人骨約300体である。人骨の観察項目としては性別と年齢の再判定,頭蓋形態小変異12項目(前頭縫合・インカ骨・左右ラムダ縫合小骨・左右頬骨横縫合残存・左右舌下神経管二分・左右顆管・左右眼窩上縁孔)および歯式(抜歯の有無および型式),骨病変等の有無を中心とした。これらの形質人類学的な属性に対し,考古学的な属性としては,埋葬姿勢・頭位方向・土壙の構造と規模・装身具の有無・副葬品の有無などを取り上げた。これらの資料の属性はすべてデータ化され,パソコンの中に記録されている。 そして,これらの形質人類学的属性と考古学的な属性がどのような対応関係にあるのか検討を行なった。その結果,装身具を保有する人骨は,埋葬姿勢によっては,概して土壙の規模も大きいことが明らかとなった。また,頭蓋形態小変異を共有する人骨は合葬されていたり,至近距離に埋葬されていたり,抜歯型式を共有したりすることも明らかとなった。さらに東日本の遺跡では骨折などの骨病変を持つ人骨が,その対応部位に装身具を持つ場合が多いことや,西日本ではそのような傾向性がないことも判明した。これらの点から,縄文時代に階層社会が存在した可能性が捨てきれないこと,装身具の呪術的医療行為としての使用方法があったこと,血縁関係者は抜歯型式を共有する可能性が高いこと,血縁関係者は至近距離に埋葬されているらしいことなど,様々な点が明らかとなった。これらの成果は,一部はすでに物質文化70号誌上において公表しているし,また日本考古学協会第67回総会にて発表を行なう予定である。
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