本研究は、自由民権運動が退潮した後、明治20年代に地方に広がったキリスト教の活動に着目しながら、その宗教的言説がどのように各地の文化的土壌に浸透し定着していったのか、それと同時に日本近代文学の創作活動にいかなる影響を及ぼしていったのか、を検討した。とくに明治キリスト教文芸雑誌の代表「文学界」に着目し、そこに掲載された北村透谷や島崎藤村、星野天知などの作品から、キリスト教的な新しい思考様式が、どのような変容を遂げながら独自の文学を創り出させていったのかを論証し、彼らの文学の意義を再検討した。 また透谷を中心とした明治文学の全体的な構造を素描するために、「文学界」だけでなく「国民之友」「国民新聞」などの民友社の人々、とくに竹越三叉や国木田独歩などの作家を取り上げた。とくに北海道の表象について、彼らが新しい開拓地をどのように語り、どのように理想化していたのか、キリスト教伝道の理想と現実のギャップをいかに作品化していたのか、など様々な問題点を考えた。「北海道」の表象は、明治文学だけでなく、有島武郎に代表される大正文学につながる大切な文学モチーフであり、近代日本の精神史・文化史を解き明かすカギになるものである。
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