今年度は、長野県伊那市の下伊那郷土館に所蔵されている伊澤修二の直筆原稿(留学中の講義ノートから講演の演説原稿まで、多岐に及ぶ)の資料収集と、国立国会図書館における、国語・国字問題、方言矯正問題、国定教科書の編纂などに関する資料収集を中心に作業を進め、約10000枚に及ぶコピー資料を収集し終えた。伊澤修二に向けられた言説あるいは彼の提起した事柄をめぐる諸問題に関する言説については、まだ、充分な調査ができていないが、少なくとも、現段階で、彼の業績などに関して収集可能なものは、ほぼ把握できたと考えている。 そうしたなかで明らかになったのは、明治期の文部官僚であった伊澤修二が、どのような思想をもって「正しい日本語」の普及につとめたかということである。彼がアメリカ留学で獲得した進化論的言語観、同時代に起こりつつあった国語・国字問題、学校現場における音声教育や方言矯正の実態、そして、「正しい日本語」が成立していく過程と近代文学との密接な関わりなど、そこには、彼が著した諸論考を分析していくことで明らかになる問題が数多くある。 現在、その第一として、文部省唱歌の普及と日本語の音韻に関する伊澤修二の指導に関する論考を作成中であり、できるだけ早い時期に活字化したいと考えている。 また、今後は、これまでに収集した資料をもとにして、言文一致の成立、明治30年代における読書行為のありようなどに関心を広げ、伊澤修二の周辺から文学の問題を考察していきたい。
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