『太平記』諸本のうち、従来研究のなされていない古写本や古活字本を中心に、書誌的研究ならびに本文研究を行った。 まず、古写本の部では京都大学文学部蔵本の書誌調査を行った。その結果、同本は典型的な嫁入り本であり、書写は寛永頃と認定するに至った。同本には本来、緞子の表紙が付いていたものと思われるが、後に何らかの事情で取り除かれたものと推定される。京大本は諸本中特異な本文を伝えるものとされるが、本文研究は目下、研究会を組織し、進行中である。将来、校訂本文の公刊を計画している。 また、国学院大学図書館蔵益田兼治書写本についても書誌・本文調査を行った。その結果、同本は吉川家本と同系統の写本であり、部分的に毛利家本系統の巻も交えていることが判明した。益田兼治は毛利氏摩下の武家であり、今回の調査により、毛利家家中における『太平記』の受容と本文の流動について明らかにすることができた。 古活字本の部では、日本各地に存する古活字本『太平記』のうち、約50本の書誌調査をすることができた。その結果、古活字本『太平記』には17種の版があることがわかり、相互の先後関係についても究明することができた。
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