二年間にわたり、宮内庁書陵部、内閣文庫、神宮文庫、石水博物館をはじめとする諸機関にて、近世期の家集の書誌データを取り、紙焼き写真を収集してきた。その一部は既にパソコンに入力し、データベース化しつつある。現在までに、テキストデータとして入力したものは、『下冷泉為景詠草』(祐徳稲荷神社蔵本)『雅喬卿御詠』(宮内庁書陵部蔵本)『雅章卿御詠』(大阪女子大学蔵本)『三条西公福卿御詠』(学習院大学蔵本)『秀葉集』(九州大学蔵本)『貞清親王御詠草』(宮内庁書陵部蔵本)『道晃法親王御詠草』(宮内庁書陵部蔵本)『老槐御集』(京都大学蔵本)『歓喜光院御集』(京都大学蔵本)『具起卿詠草』(宮内庁書陵部蔵本)などである。今後、これに地下の部をつけ加え集大成して出版する予定である。また、今まで研究してきた木下長嘯子の家集についても、斯道文庫蔵の異本を翻刻紹介し、平成十三年二月刊の『長嘯子後集』(拙編古典文庫全460頁)に収録した。斯道文庫蔵本は、新出歌を九首含み、年代がここからおよそ判明する事、長嘯子の歌の改訂の過程がわかる事、輪池叢書本『木下長嘯子家集』とほぼ同年代のものであり、輪池叢書本の成立に一つの材料を与える事など、その出現の意味は大きい。それのみではなく、この本の筆者が、『思文閣古書資料目録』第八輯に収録されている「通勝本」とされる一連の古典書写と同じ筆跡である事を斯道文庫の佐々木孝浩氏が発見した。ここには、長嘯子作とされる「虫尽」も収録されていて、これが藤井隆氏の『虫歌合』非長嘯子作の根拠となっているものであり、今後考えるべき問題を孕んでいる。また、長嘯子の家集『挙白集』の成立については徹底してその周辺資料を探ってきたので、その成果は平成十四年度中に出版予定の『木下長嘯子研究』第二部「『挙白集』成立の周辺」として結実させる。
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