研究概要 |
本年度は前年度に引き続き、ジェイムズ朝からチャールズ朝、内戦・共和制を経て、王政復古時代へと至る流れの中でのブリテン像の文学における表象について考察した。具体的には以下の三点について研究を行なった。 1 極めて政治的な文学ジャンルの一つであったジェイムズ朝・チャールズ朝の宮廷仮面劇におけるブリテン像が、次第に現実政治から乖離した、理想化されたものに変容して行った様子を考察し、そこに当時の脚台的文脈が強く影響を与えていた点。 2 ミルトンの仮面劇(Comus,1634上演、1645出版)と『ブリテン史』(1670出版)におけるブリトン史とウェールズの扱われかたに、それぞれのジャンルの伝統と、それぞれの書かれた歴史的文脈とが影響を与えていた点。 3 ドライデンのKing ArthurやAlbion and Albaniusといったブリトン史を扱った演劇作品について、それらの中のブリテン像が作者の政治的意図を強く反映したものであった点。 過去二年間を通じた研究によって、ジェイムズ一世の即位から大ブリテン王国形成へと向かう大きな歴史の流れの中で、その中核となったイングランドと、周縁をなすケルト地域との軋轢を通じて、文学におけるブリテン像が、時には否定的に、時には理想化されて描かれている様とその歴史的背景の一部が明らかになってきたと考えられる。 本研究期間の成果については、本報告書に別途記載してあるが、これらに加えて、2001年3月に提出した研究代表者の学位論文"The Romanticization of a British Past"、ならびに2001年11月に京大英文学会年次大会にておこなった研究発表「相対化される周縁-『シンベリン』におけるブリテンとウェールズ」等に反映されている。
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