研究概要 |
筆者はかねてより古期ゲルマン諸語において、ゲルマン語*fram,ひいてはインド・ヨーロッパ語*pr-から派生した動詞群を網羅的に調査しているが,本年度は特に古期英語動詞fremmanおよびgefremmanが,韻文作品において,どのように使用されていたかを統語的かつ意味的に考察した。要約すれば, 1)fremmanはジャンルを問わず,英雄詩(Beo, Finn, WaldB, Wid),格言詩(Gifts, Max I, OrW, Prec, Rid, Vain),叙情詩(Husb, Res, Sea, Wan), 宗教詩などのいずれにおいても広範囲に使われている, 2)fremmanは宗教詩の中では特に古期英語前期に成立したと想定されているCynewulfの作品(ChristB, El, Jul)やCynewulfianと呼ばれる作品群(And, ChristA, ChristC, GuthA, GuthB, Jud, Phoen)において好んで用いられている, 3)逆に,宗教詩でもCaedmonianと言われる作品(Dan, Ex, GenA, GenB)や古期英語後期の作品と考えられているPPsやMetではfremmanの使用頻度にばらつきが見られる。特にMetに至っては,fremmanの出現する確率がBeoの10分の1である。 今後は,古期英語以外のゲルマン語(特に古期フリジア語)で書かれた韻文作品におけるfremmanの同根語の用法を詳細に比較、検討したうえで本研究を発展させてゆきたい(古期低地ドイツ語および古期高地ドイツ語で書かれた韻文作品における'fremman'については尾崎久男(2001)を参照)。
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