本年度(平成12年度)は、アメリカにおけるジェンダー・セクシャリティ研究(特にラッセル・リオンやディヴィッド・L・エンなどアジア系男性学者のセクシャリティ研究)をふまえた上で、アメリカ社会においてステレオタイプ化されたアジア系アメリカ人男性の「非男性性」という視点からアジア系アメリカ文学、特にアジア系アメリカ人作家による演劇テクスト中心に研究を行った。同時に、そうしたアジア系アメリカ男性の「非男性性」が生れてきた文化的背景を解明するための必要文献(文学作品の他、新聞記事・雑誌等も含む)の他、関連するジェンダー・セクシャリティ論関係文献を中心に収集した資料群に対し、アジア系アメリカ特有のジェンダー・セクシャリティという視点から精緻な文献研究を行い、アジア系アメリカ人の「非男性性」の社会文化史的生成過程の一端を解明した。すなわち、西洋(人)が東洋(人)を支配するための形式オリエンタリズムというメカニズムに基盤を置きつつ機能しているアメリカ社会・文化において、アジア系アメリカ人男性は、女性化/従属化され、「非男性性」という一種のステレオタイプを背負わされていったと考えられる。今年度の研究成果の一部は、平成13年3月発行予定の『アジア系アメリカ文学』(大阪教育図書)収録の拙論「アジア系アメリカ演劇におけるマスキュリニティとクイアネス」において発表される。さらにこうした今年度の研究成果は、来年度(平成13年度)において、トリン・T・ミンハやガヤトリ・スピヴァックなどのアジア系女性によるポストコロニアル・フェミニズム批評理論に依拠しながら、アジア系アメリカ人に多く見られる異人種間結婚・混血という視点からアジア系アメリカ文学研究を行うことにより、アジア系アメリカ人の人種とジェンダー・セクシャリティの相互関係の包括的分析へと展開される予定である。
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