2000年における日本のフェミニズム運動の最大の成果は、いわゆる「従軍慰安婦」をめぐる国際戦犯法廷を実施したことである。研究実施者も科学研究費補助金を利用してこの法廷に参加した。そこで明らかにされたのは、民族の視点をふまえたうえで性暴力問題を問うことの重要性であった。「従軍慰安婦」問題においては、帝国の女としての日本の女の立場をめぐってフェミニストの間で論争があるが、じつは民族の視点からフェミニズムを問い直すことは、90年代以降の世界のフェミニズムの課題でありつづけているのである。 本研究の主要テーマである女性性器切除(FGM)、いわゆる「女子割礼」問題も、この枠組みのなかで、すなわち、民族とジェンダーの交差のなかで捉えることができる。しかし、科学研究費補助金を利用して研究会や国際シンポジウムに参加した結果、日本のFGM廃絶運動支援者のあいだで、この90年以降のフェミニズムの流れが共有されているとは言いがたく思われた。と同時に、アフリカで廃絶運動を担っている女たちも、草の根の女たちにたいするみずからの階級的特権性に無自覚な場合もあるようだ。 なお、予定していたアメリカ訪問は、今年度は日本でのフェミニスト言説分析に重きをおいたため実施しなかった。来年度準備が進めば実施したい。 上述の報告から明らかなように、今年度は補助金の大半を資料・情報収集に費やした。来年度も同様となろう。本研究課題は2年計画であるため、次項の研究発表一覧も現段階ではFGM問題と直結はしておらず、これまで研究実施者が研究してきた課題に、本研究課題補助金を利用して得た第三世界フェミニズムにたいする知見を反映させて発表した成果を列挙した。直接的な成果として、今年度実施するはずだった日本のFGM廃絶運動支援グループの代表者インタビューを来年度実施し、文章にして発表したいと考えている。
|