研究概要 |
前年度の成果をうけて、フランス理神論の政治的含意に焦点を絞り研究を継続した。研究の大半は、モンテスキューの政治理論の独自性を、宗教に対するスタンスを介して解明する作業にあてられた。従来単独に論じられることの多かった『法の精神』第11編第6章におけるイギリス政体論は、同書第19編で展開される「民族の一般精神」の理論との関連において読み直すことが可能である。そのさい、必ずしも明示的に言及されていない、イギリス政体の宗教的性格(宗教戦争の帰結としてプロテスタンティズムの原理が政治制度に浸透している事実)に着目することで、宗教が個々の政体と独立して存在するのではないというモンテスキューの強固な信念が析出されてくる。こうして、17, 18世紀のフランス理神論の潮流が、つねにカトリック教会の代替物としての普遍的な信仰体系の確立を指向しているのに対し、モンテスキューの理神論が、教会の存在を前提とした、君主制国家フランスに適合する信仰のかたちとして選びとられていることが明らかになる。モンテスキューの思想がアンシアン・レジーム下において大革命以後の政教分離の原則に道をひらいたとする有力な見解(J・エラール)は、彼が宗教の政治的な力を軽視していたわけではなく、あらゆる政体においてその構成員を律する宗教が別に機能している限りにおいて宗教の政治的領域への干渉を排した、と修正する必要があるだろう 以上の研究成果は近日中に論文にまとめ、研究誌に投稿する予定である。
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