本年度は、『狐物語』において見られる中世キリスト教典礼及びに武勲詩のパロディーを研究するのに必要な資料収集とその整理を行った。 1.研究資料の収集 8月にフランス国立図書館、ポワチエ大学中世文化研究所に出張して、中世キリスト教典礼と武勲詩、『狐物語』の写本解読と資料の収集を行った。また、図書の購入と11月の東京大学付属図書館への出張で、特に武勲詩の校定本の購入と複写を行った。 2.研究資料の整理と研究の現状 武勲詩のパロディーに関しては、当初シャルルマーニュの家系を中心に描く『ローランの歌』など「王の詩群」と呼ばれる作品群との関わりについて考えていたが、むしろその臣下ギヨームの武勲を描く『オランジュ攻略』『ニームの荷車』など「ギヨームの詩詳」との関わりを考える方が、研究に多くの実りをもたらすことが分かった。理由は、「ギヨームの詩群」が『狐物語』とほぼ同時代に書かれていることと、C.Lachetの研究で明らかにされたような伝統的な武勲詩の枠組みを利用しながらも当時の恋愛物語の盛り込むことでその枠組みを嘲弄するという書き方が『狐物語』のそれに類似していることである。 典礼のパロディーについては、当初から分かっていた『狐物語』第17枝篇の他にも第12枝篇と第14枝篇に「愚者の祭り」と呼ばれる宗教行事の中での息抜きといえる祭礼が反映されていることが分かった。先行研究を参照しながら研究を進め、来年催される国際動物叙事詩学会での発表テーマとする。
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