今年度は、当該研究二カ年計画分の初年度として、現在の生成文法理論の極小主義プログラムで想定されている自然言語生成機構が含意する算定量の測定基準に関する基礎的研究を行った。 現在の極小主義プログラムでの言語構造生成には「融合」と「移動」という二種の操作が仮定されているが、「移動」操作は素性照合に誘発された「融合」操作の一種と考えられており、従って「融合」操作が言語構造生成の基本であり、「融合」操作の算定量が極小主義プログラムでの自然言語生成機構が含意する算定量の基本となる。 一般に離散数学や計算機科学では算定量や演算複雑性の問題は、線状離散記号列を対象とした普遍チューリング機械での操作回数、または記憶負荷量で測定されている。そこで「融合」操作の算定量を直接測定するにはグラフ理論的記号体である構造木を線状離散記号列として処理する木オートマトンの構築が必要となってくるが、「融合」操作自体は、線状離散記号列を対象とした形式文法理論における文脈自由文法規則をグラフ理論的記号体として構造木を生成する操作と見なすことができる。従って直接木オートマトンを構築せずとも、「融合」操作の算定量は文脈自由文法の算定量から推測することができる。 文脈自由文法の算定量は非決定性ブッシュ・ダウン・スタック記憶オートマトンと同値であるが、その解析能力からは直接算定量測定は困難である。そこで解析能力からではなく、文脈自由文法の学習可能性の観点から算定量を推測する方法で、形式文法としての文脈自由文法に自然言語の句構造で観察される範疇継承を背景知識として利用する計算機学習のモデルを構築した。このモデルでは範疇継承性を持った階層型文脈自由文法は多項式時間内で効率的学習が可能であることが判明した。 これは、学内での共同研究結果の一部でもあり、国際学会誌に論文発表した。
|