本年度は、昨年度の不定名詞句の解釈に関する研究を受けて、「同一性」の問題を追究する一方、不定名詞句の中でも特殊な振る舞いをする「スケール名詞」の振る舞いを遊離数量詞の関係節化と結びつけて統語論的な説明を試みた。 ・昨年度に引き続き、間接疑問節と同様の分布を持つ名詞句(潜伏疑問名詞句)について、「〜次第」という表現を付加したときの解釈を用いて考察を深めた。Carlsonの存在論と坂原の「同一性/相違性」の議論との関係を進め、モノを指示する名詞とコトガラを支持する名詞とでは「同一性」のありかたが異なることを指摘した。 ・「三人」のような数量を表す名詞が副詞として生起する「数量詞遊離」現象については研究が進められているが、この現象と「人数」のようなスケールを表す不定的な名詞とが関係を侍っていることを明らかにした。 ・遊離数量詞は関係節化できないといわれてきたが、「学生が来た人数」のような表現は、「人数」の解釈のありかたなどから考えて遊離数量詞の関係節化として分析できることを示した。 ・上記の一般化に対して、「人数」のようなスケール名詞が値を表すようになるメカニズムを明らかにした上で、このメカニズムが咋年度考察を加えた「分」の統語論的な振る舞いにも説明を与えることを示した。 ・遊離数量詞が関係節化できるという事実は、いくつかのタイプの副詞が関係節化できることを予測し、「速さ」「頻度」のようなスケール名詞を主名詞とすればさまざまな副詞的要素が予測どおりになる可能性があることを示唆した。
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