(1)言語現象の記述 本年度は、以下の項目について、日本語とロマンス諸語を比較しながら、その共通点及び相違点を整理するために、文献調査によって関係するデータの収集を行った。 (a)空範疇の分布とその特性 (b)文構造における語順(特に、主語の統語的分布) (c)叙述の役割(主題構文、関係節、tough構文における叙述の役割) また、文献調査を補足すべく、平成12年8月5日〜9月3日まで、カリフォルニア大学アーバイン校にて、実地調査(フランス語・イタリア語・中国語母語話者とのインフォーマントワーク)を行った。さらに、これらの現象及び関連する事象についての先行研究を整理し、問題点や課題を明らかにしながら、批判的な精査を行った。 (2)理論的考察 (1)に記した言語現象の記述及び先行研究の批判的精査を基に、日本語とロマンス諸語の統語的特性に関わるパラメターについての仮説を立てた。この仮説は、文構造の主要部である屈折要素(INFLあるいはT)がもつ素性として[±predicate]を定め、その値の違い(日本語は[+pred]、ロマンス諸語は[-pred])から上述の言語現象を説明するというものである。この仮説によって、(a)に関する最も有力な仮説、Huang(1984)によって提唱された空主題パラメターをより根本的な原理から導き出すことができること、(c)に関する日本語とロマンス諸語の相違が説明できること、(b)について、ある程度原理的な説明ができることが明らかになった。 (3)今後の課題 今後は、このパラメターをより精緻なものにしながら、この仮説がどれだけ説明力をもつかを確かめるために、再構成化現象など他の現象について考察を深めていく。
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